翔んでアルミナリア
谷へ馬を乗り入れると、一気に視界が薄暗くなった。日没が近い。

「ノア、次はどこへ向かうんだ」

「植物の道しるべを辿ります」

今度は植物の道しるべか、ってなんだそれは?
というか、陛下はエレオノア姫のことを、ノアって呼ぶんだ。寵愛ぶりが伝わってくる。

「ザンテの民の知恵のひとつです。水場への目印などに、植物の枝を折り曲げて方向を示すもので、彼らの言葉でイシュマといいます」
エレオノア姫が説明してくれる。

水も養分も乏しい乾燥地帯に生える植物の成長は、信じられないほどゆっくりで、その代わりというか恐ろしく長命だという。
一度イシュマを作れば、落石など、よほどの不運でもないかぎり無くなることはない。

エレオノア姫は馬から下り、手綱を引いて岩影からのぞく植物に注意深く目を向けている。

「ありました、これです」
エレオノア姫が声をあげ、皆がそばに集まる。

うーん…内心頭をひねる。
姫様が手のひらで棘だらけの低木の枝を示している。言われてみれば節が一ヶ所曲がっているけど、それが自然にできたものなのか、人為的なものなのか、まったく見分けがつかない。
他の面々もわたしと似たり寄ったりのようだ。
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