翔んでアルミナリア
洞窟の奥はそこから複雑に枝分かれしているようだった。考えてみれば自然の侵食で生み出された洞窟が、一本道なはずはない。
光を辿るので進路を迷うことはないけれど、足元が悪い上に時間との戦いだ。

「おそらくは来た道を引き返すことになると思うが、覚えておけるか、我が師よ」
足早に歩を進めながら、振り返らずに皇帝が問う。

(わたくし)が一度歩いた場所を忘れることはございませぬ」
平然とエストライヘル師が返す。

一度でいいから、そんな台詞を言ってみたいものだ。
光を追いかけることで頭がいっぱいで、帰り道のことを忘れていた自分にもぞっとした。
冷静さを失わない陛下もさすがというべきか。

月の光は洞窟の壁に当たっては反射を繰り返し、奥へ奥へとわたしたちを(いざな)う。

洞窟内はときに狭くなり、隘路(あいろ)のような場所を一列になって進むときは、人の体が光を妨げてしまうこともあった。
そんなときは広い場所に出たら、誰もが阿吽の呼吸で散開し光を通した。
そしてその示す方向にまた急いで歩を進める。
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