翔んでアルミナリア
「あんまり痛みは感じないんだ。じんって痺れてる感じ。たぶん肋骨を抜けて、肺まで達してるんだろうな。息が苦しくなってきた」
口にする間にも、傷口の周りから衣が赤黒く染まってゆく。

「ダメだよ蓮くん、そんなこと言わないで。わたしをひとりにしないで」
目から溢れ出す熱い雫が、ぽたぽたと蓮くんの顔に降りかかる。

ごめん、と彼が苦しげに声を絞る。
「俺、間違ってた」

間違ってた? なんのことだ。

「…皇帝とエレオノア姫を見たろ? 皇帝もきっと後悔してるだろうな。誰かを閉じ込めて自分のものにしようとしたところで、人の心までは縛れない。心を動かすのは心でしかないのに。俺は実花子を卑怯なやり方で…」

心。その一語。
ずっとずっと考えていた謎の答えが、わたしを貫く。暗闇の中を指ししめした、あの月の光のように。
単純で大切なことは、いつだって目の前にあるのに、どうして気がつけないんだろう。

蓮くん、と彼の手をそっと握って呼びかける。
「神の遺産がなにか、分かったよ」
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