翔んでアルミナリア
ともあれ皇帝の命は即座に実行され、(いましめ)は解かれた。しびれた腕をこする。

「さてどう扱ったものだろうな、この珍客を」
リュシウス帝が独り言のようにつぶやく。

皇帝の “客” という言い方に希望を見出す。

「僕たちは、元の世界に戻りたいです」
意を決したように蓮くんが口を開く。

「それは無理な相談というもの」
言下に否定したのは、エストライヘル師だ。
「いかな導力(どうりょく)をもってしても、時空を超えた世界へ人を送る策は見つからぬ」

この作品世界、というか、もはやわたしたちにとってはここが現実世界になってしまったわけだけど、において、師の言葉は真理と同等のようだった。
彼が無理だと言えば、無理なんだろう。蓮くんと二人、身を寄せ合って肩を落とす。

「———解せぬのは師よ、なぜ私をわざわざこの場に呼んだのだ?」
リュシウス帝がエストライヘル師に聞いているのが耳に入る。

…ということは、この場を設けたのはエストライヘル師なのか。その意味まで考える余裕はなかった。

命の危険は遠ざかったようだけど、元の世界には戻れない。
わたしたちの立場は相変わらず俎上(そじょう)の魚でしかない。
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