翔んでアルミナリア
ドアを開けると、低めた声で「宮女、ミカコ。宮殿からのお召しです」と告げられる。

「えっと…すみません、誰からですか?」
当惑しながら訊いてみる。

「来れば分かります。身支度を」
仮面のような表情を顔に張り付かせている。これも訓練で身に付けたんだろうか、とちらっと思う。

「…分かりました」
しょせんはしがない見習い宮女だ。言われた通りにするしかない。

いったんドアを閉めて、日中身につけている宮女のワンピースに着替えた。

「わたしの背中だけを見て歩いてください」と短く言われ「はい」と返す。
査問のときのように、目隠しこそされないものの、宮殿の内部を知ろうとしてはいけないようだ。

言われた通りなるべく彼の背中を視線を固定して歩く。それでもさすがに足元が不安なので、ちらちらと視線を落とす。黒と白の石が幾何学模様に敷き詰められた床から階段をのぼると、寄木張りの床になった。

コツコツというわたしたちの足音だけが響く。
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