翔んでアルミナリア

小さく歓声があがる。
ロープの内側に浴衣姿の少女が一人現れた。神子にあたる年齢の中から、たぶん祭りの実行委員会の関係者筋で選ばれたのだろう。

両手で聖火ランナーよろしく、松明にみたてたトーチを掲げている。そしてしずしずと櫓に歩みを進める。
見守る群衆のざわめきが大きくなる。

視線の中で、トーチが触れたところから炎がまたたくまに櫓全体を包み込み、燃え上がる。
おおー、という歓声の後、ひとときの静寂。

目を閉じて願いごとを———この櫓祭りの願いごとには、流れ星や初詣と違って、願いにひとつ禁忌がある。
いわく、邪なことを願ってはならない。

家内安全とか無病息災なんかはもちろん安全圏だ。恋愛成就とか、今度部活の試合で活躍できますように、とか自分や世の中にとって前向きな願いごとは許される。
だけれど例えば、誰それが不幸になりますようにとか、極端なはなし世界征服とか、誰かに害意を及ぼすような願いごとをしてはいけないと聞かされていた。
願いごとにこういった禁忌がある風習は珍しいのではなかろうか。