綺桜の舞う
『僕、もう死ぬことにしたから。僕のこともう忘れて。ごめんね、沙彩ちゃん』


あの時言われた言葉も、あの時の陽向の顔も、去っていく小さすぎる背中も、忘れられない。
鮮明に脳裏に焼き付いて離れてくれない。


叶奏みたいに、全部忘れられたら、って、何度思ったかわからない。
全部忘れてしまいたいって、全部投げ出して、私も陽向みたいに消えちゃいたいって、何度思ったかわからない。


それくらい、私の中で陽向の存在は大きくて。


「私、幸せになりたいの……辛い思いなんて、これ以上、いらない」


恋は人を変える、なんてよく言うけど本当にそうだと思う。
叶奏だって、湊くんと出会ってから、あんなになよなよしてたのが嘘みたいに総長の顔になって。


遊び散らかしてた朔だって、蛍と付き合い出してからは割とそういうのが止んだし。


私だって……陽向に出会って初めて、この人のために生きていくんだって、思った。
現実しか見てなかった私が、こんなメルヘンなこと考えるだなんて、頭おかしいなって、ずっと笑ってた。
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