綺桜の舞う
のに。
もう笑えない。
そう思えてた時が幸せすぎて、夢だったみたいで、もう、やっていられない。


目の前に陽向がいるのに抱きしめてもらう勇気もないし、ましてやこれから隣を歩く覚悟もない。
いつかまたいなくなるであろうこいつとの短い時間を、短い時間で終わらせられる自信がない。


だから。


「いらない、そう言うの。陽向が思ってるほど、私。強くないから」


近づいてきて、私の腕を引いて、小屋の扉を閉める陽向に私はそう言う。
震えた声、私らしくない。
こんな乙女みたいな思考、私じゃない。
私はもっと、強くなりたい。
誰にも頼らず生きていけるくらい、強く。


「……僕、ずっと勝手だった。今もずっと、それは変わんない。
僕、死ぬのやめた。守りたい居場所できたから。
一緒にいたい人たちが、できたから」


……。


「……そんなの、意味わかんない。
それじゃ、そんなの……私の隣は居場所でも、守りたい場所でも、なかったの?」
< 134 / 485 >

この作品をシェア

pagetop