綺桜の舞う
一方叶奏は、防御に駆使した左腕がそろそろ上がらない。
体はボロボロ、足からは血が流れている。


ちらりと、こちらを一瞥する。


「……叶奏」


優しく笑って、そして相手の方を向き直した。


「……私、自分より強い方は、何故か苦手なんですよね。どうしてかは、覚えてないですけど」


叶奏はそう言うとふぅっと息を吸って、目を閉じて、息を吐く。
かっと目を見開く。


総長の目………………ではない。


俺が、俺たちが見たこともない、覚醒した目。


瞳に光のささない、人の心を失ったような、人が変わってしまったような。
……トラウマに、なりそうな目。
俺はこの目を知っている。


明らかに、こいつは。


「やっぱりその目、組の人間じゃないですか」
「そうなのかも、知れませんね。覚えてないので、わかりません」
< 173 / 485 >

この作品をシェア

pagetop