綺桜の舞う
◇ ◇ ◇







別荘に戻った叶奏は部屋にたどり着く前に、ぶっ倒れた。
俺は慌てて叶奏を部屋に運ぶ。
薄い意識で、湊くんと一緒にいたい、と言った叶奏を俺の部屋に連れて帰り、いつもみたいに手当てをした。


いつも以上の傷が身体中を赤く、青く染めていて、叶奏の体は明らかに悲鳴を上げていた。


「叶奏、骨痛いとことかない?明らかに折れてそうなところ」
「……ないよ、うん」


大丈夫、は流石に出ない。
痛そうに顔を歪めて涙を流すのはただの女の子の叶奏で、夜桜総長ではない。


「ありがとう、俺たちのために」
「……約束したから、みんなのこと守るって」
「うん、わかってる」


無理をするな、は言うのをやめた。
何もない今を必死に生きる叶奏を否定している気がしたから。
血だらけの体を綺麗に拭き取って、腫れたところを冷やした。


「明日は一日中、出れないな」
「海行きたい……」
「絶対染みる」
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