綺桜の舞う
31.タバコの香り
「天馬薫風、ねぇ……」
俺はそんな独り言をこぼしながらタバコをふかした。
倉庫裏、倉庫の壁にもたれてひっそり、俺が毎日隠れてる場所。
タバコの煙はうっすら吹く風に流れて消える。
天馬薫風。
やけに懐かしい名前。
ったく、ろくでもないやつについて行ったと思ったら、なんの縁だよ、ほんとに。
これが運命だって言うんなら、クソみたいな人生を作り上げる才能があるのかもしれない。
俺も、薫風も……湊も。
馬鹿らしいったらない。
「伊織さん」
ふと、最近よく聞くアニメ声が耳に届いた。
「なーんで来るかな。タバコ吸ってんよ?」
「消してくださいよ。せっかくお話に来たんですから」
にっこり笑うのはあんずちゃん。
すたすたと近づいてくるから、俺は慌ててタバコを消した。
「1人で何してたんですか?」
「タバコ吸ってただけだよ?」
「そうなんですか。……まぁ、なんでもいいですけど」
「あんずちゃんはなんできたの?」