綺桜の舞う
「しょーもない権力ほしくて潰し合いとか、ほんとにかっこいいと思ってるの?……ボクは、しんどいよ、そんなの」
「……うん」


俺は止めどなく涙を流す琥珀を抱きしめる。
カーディガンに涙の滲み。


「大丈夫、ちゃんと助けるから」
「……うん」
「辛いとこ、たくさん見せちゃうことになるだろうけど……ちゃんと帰すから」
「ん……」
「だから、泣かないで。大丈夫だから」


俺は静かに涙を流す琥珀を抱きしめて。


……結局、俺は口だけで無力に過ぎないんだなって切実に思う。


「……ユキ、人来るから。離れて」


教室の外に足音が聞こえる。
コン、コン、と聞き覚えのある、軽い音。


「ユッキー」


伊織の、声。


「何かしてるかもしんないから開けないんだけど〜」


ドア越しにいつもの陽気な声。
一応、琥珀にしーと人差し指を立てる。


「今日俺と買い物行こ〜。お嬢3人がみんなでご飯食べたいらしいから。タイムリミットあと20分ね〜。駐輪場で待ってるから頼んだ」
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