綺桜の舞う
◇ ◇ ◇


「で、付き合うことになったわけだ?」


伊織はそう言って、パンをかじった。
いちごの甘い匂いが鼻をかすめる。
今日はバレッタもつけずに前髪を流してるもんだから、色気がえぐい。
だからなんだって話ではあるが。


「あんな脅され方したら、な」


『……嫌って言ったら?』
『……ちょっと泣く』


お茶目にそう言っていたものの、あれはガチだった。
俺が原因で族が潰れるなんて考えたくないし、伊織への借りも増える。
……考えるだけでおぞましい。


「それで断らなかったんだから、叶奏ちゃんに気があるんでしょ?」
「んなわけないだろ」


ずるーと言って、最後の一口を口に放り込んだ伊織。
もさもさと口を動かす。


「で、ヤった?」
「くたばれ」
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