綺桜の舞う
……去年まではずっと、『ちょっと身体がだるい』が基本だったのに、薬ってすごいと思う。


「文化祭は一緒に回れんの?」
「うん。でもちゃんと着替えてねって」
「当たり前だろな」
「朔と写真撮りたいって言ったら、嫌がられた」


蛍は寂しそうにペタペタと絵具をのせる。


「湊くん」


教室の入り口、最近歌いまくったせいか地声のキーが半音上がっている不思議な女の声。
自分のクラスの準備はどうしたんだろうか。


「どした?」


俺は教室の入り口に歩み寄って中の奴らに見えないように叶奏を見下ろす。
あんまり準備中に他クラスの、しかも彼女と話してるとか、気悪い気がして。


「うん」
「……何?」
「お話ししたくなったから来た」
「そっちの準備は?」
「楽器のチューニングと機材チェックメインだったから、そんなにだった」


どうやら叶奏のクラスの準備は早々に終わってしまったらしい。
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