綺桜の舞う
腕を引いて歩き出そうにも部屋を出て吹き抜けの鉄柵沿いにきたところで、蛍は逆に私の腕を引いて引き戻す。


「記憶は、戻ってもらわなきゃ、困るの。
……叶奏が襲われるのが、本意じゃなかっただけ。立場は変わんない、から」


真っ直ぐ、私のことをとらえる蛍の瞳。
息が詰まる。


「……蛍、?」
「蛍は、叶奏の味方……これは、変わんないよ」


そう言った蛍の言葉を遮るくらいの勢いで、倉庫にシャッターの崩れ落ちる音が響いた。


「……」
「ごめんね、叶奏。蛍、叶奏に辛いことする」


そう言って蛍は手錠を私の右手に、もう片方を一階の崩れたシャッターを見下ろせる位置の鉄柵に回した。


「蛍……何が、したいの?」
「叶奏が全部思い出したら、わかるから」


蛍はそう言って私の元から離れて行った。
下には既に夜桜と綺龍の面々が見える。
誰か1人くらいは蛍の動向を見ていてもおかしくはない。
のにも関わらず、ここから逃げたのは……引け目か。
< 333 / 485 >

この作品をシェア

pagetop