綺桜の舞う
「わかるでしょ。
……夜桜が勝てなかった奴らに俺らが勝負とか割と身の程知らずなとこもあると思うんだよ。ましてや相手は組の人間。


別に戦いたくないとかじゃないから。副総長にしか聞かせられない総長の弱音な」
「あぁ……わかってるよ」


……当たり前、か。
組の人間なんか、暴走族とは桁違いの戦闘能力。
ただのヤンキーが絡みに行って勝てるような相手じゃない。
ただ、今回の抗争はただの表面上族同士のケンカ。
それ以上でもそれ以下でもない。


怖気付くわけにも行かない総長の肩にのし掛かるものは……多分、俺には一生わからない。


「……俺、死ぬ気で戦うから。今回は俺のこと信用して」


俺は薄っぺらな言葉を吐く。
伊織はチラリと俺を見て、また視線を戻した。


「無理して死んじゃったら、叶奏ちゃんに合わせる顔ないでしょ。……俺、まだ湊に生きて欲しいからね?」
「……」


何が正しいとか、何が間違ってるとか、そういう次元じゃなくて俺は。


「……俺は生きてて欲しい人に、生きて欲しい」


サァ……ッと風が吹く。
伊織は何も言わなかった。
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