綺桜の舞う
『私の記憶が戻ったこと、バレなかったらこうはならなかった?』


あの儚い笑みが、ボクの頭にへばりついて離れない。
宣戦布告とか、しなきゃよかったって、ここまで後悔したことないってくらい後悔した。
……立場的に伝える以外の選択肢なんて、ボクにはないんだけれど。 


「……帰らなきゃ」


今から帰ったところで授業になんて参加できるわけないんだけど。


ボクは2人が消えて行ったドアを後を追うように進んだ。
薬品の匂いが染み付いた廊下をスタスタと歩いて、5歩。


次の瞬間。


「へ……っ」


腕が何かに掴まれたかと思ったら次の瞬間、視界が突然ぐらっと揺らいで、すぐ近くの教室に吸い込まれた。


「なっ、んん」


手で口を塞がれて、その向こうに見えたのは。


「叶奏となんの話してたの?」


お怒りモードのユキだった。


ゆっくりと手が離されて、代わりに顔が近づいてくる。
背後には壁。
後ろに下がることは愚か、気づいたらもう片方の手も掴まれて、抵抗すらままならない。
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