綺桜の舞う
伊織の真剣な顔は見慣れない。
いつも通りの口調の割に、表情が硬い。


……当たり前、か。
こんな状況、今まで初めてだ。
場慣れなんてしてるわけない。


「もしかして、湊」
「あ?」
「正常な判断できてないでしょ。
叶奏ちゃんいなくなって割とぐらぐらしてんじゃない?
殴られんよ、気をつけな」
「……わかってる」


……そっか、そういうふうに見えるか、俺。
割と、なんとなく察してはいたけどやっぱり、叶奏が隣にいないと、結構しんどいところある。


きつい、な。
昨日の酒も少し、体を重くさせている。
酒のせいで薬の効果が和らいでしまったか。


バイクで片道40分。
やけに遠く刃牙の倉庫は、海の近くで、他の倉庫とは一線を画す、巨大なものだった。


「魔王城って感じだな」
「見た目汚いのやだなぁ……」


とか言いながら、丁重にシャッターをあげる。
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