綺桜の舞う
けど、綺龍にはそんな力はない。



与えられた居場所を与えられた通りにしか利用できない、親の欠けた、あるいは親のいない集団。
居場所の守り方さえ、仲間の大切ささえ、愛の受け取り方さえ、曖昧にしかわからないこの集団は、自分たちの居場所がなくなった瞬間の気持ちを2度と感じたくないと思っているけれど、失うことの恐怖から能動的に動くことさえ、ままならない。


蛍にはその気持ちがわかる。


わかるが故に、この戦況は蛍たちに有利すぎる。
朔さえ潰せば、綺龍は、戦意を失う。


蛍の足元で項垂れる朔に視線を移す。


「……朔、蛍は本気出さなきゃ倒せないよ」
「るっせ……隠し球がデカすぎたんだよ」


ふらふらと立ち上がる朔から、ゆっくり2歩離れる。
履き慣れなれた靴の底がコツっとコンクリートを響かせた。


「……ったく、蛍は精神攻撃うますぎなんだよ」
「朔だって浮気してばっかりだったでしょ。蛍のことだけ言わないで」
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