綺桜の舞う
無理矢理、回し蹴りを繰り出す。
体勢は悪い。スピードも良くない。


「……っ、」


当たり前のように朔に受け止められ、そのまま地面に投げ倒された。


「やっぱ蛍は蛍。力は弱い」
「……やめて」


馬乗りになる朔から目を逸らして、どうすればいいかわからなくて、涙が止まらなくなる。


「蛍、本当のこと、言ってみ?」
「……言わない」
「意地っ張りしてたら、いつまで経ってもこのまんまだけど」
「……それでも、言わないの」
「なんで?こんなんじゃ刃牙の倉庫帰れないから?それとも、俺らのこと、守れなかったから?」


……蛍は、何も言えなかった。
もはや何を言っても、朔には全部バレていて。


「蛍」


じゃあもう、朔になら何を言っても良いんじゃないかって思った。


「……蛍は、」
「うん」


声が震えている。


「強く、なりたかった。
薫風の恐怖に煽られないくらい、強くなりたかった。
ずっと薫風の言うこと聞いて、汚いこともしたし、危ないこともしたし……夜桜の、スパイになった。
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