綺桜の舞う
「ねぇ、姫野ってあれだよね」
「……なんですか」


総長室のベッドの上で正座して、目の前に立つ薫風を見上げていた。


「超お金持ちなお家柄でしょ」
「ぼちぼちです」
「天馬って聞いたことある?」


怖気がした。
こんなところにほいほい、組の人間が転がってると思わなかったから。
一応、聞くことはあるのだ、気をつけなさいと、昔から危ない人間の名前は頭に刷り込まれる。


薫風は私の目の前でニヤリと笑った。


「抵抗したらどうなるかわかるよね、流石に」
「……っ」


その日から私は刃牙の姫になった。


護身術はできるんでしょ?と戦い方を刷り込まれたり、抗争にも参加した。捕まったときの逃げ方も、相手の見極め方も、手の内に入る方法も全部、薫風が教えてくれた。
薫風の夜にだって付き合わされたし、スパイも、した。


私が夜桜に入ったのは、もうスパイも慣れっこになってきた頃。
予定通り路地裏で陽向に拾われて、易々と侵入に成功した。
そう、やすやすと。
< 416 / 485 >

この作品をシェア

pagetop