綺桜の舞う
にっこり笑う薫風の目は全く笑っていない。
私の顎を掴んだ指が表情を歪ませる。


「い、たい」
「別に、男作ってこいとか誰も命令してないけど。
て言うかそもそも、綺龍のことなんて、誰がかまえって言ったよ、ん?」


怖い……3年ぶりに見ても、怖いものは怖い。
どうしようもなく、体に力が入らない。


「ご、めんなさい。記憶、なくなってて」
「そうらしいね、蛍から聞いたよ。
でも取り戻したんでしょ?目的、思い出したんでしょ?
軌道修正しなきゃ、どうしてそのままにしてるの?」


怖い、怖い……怖い。
助けて……。


「……そんなびびんないでよ。別にちょっとお説教してるだけでしょ。ビビらせてごめんじゃん」


薫風はそう言って私の唇にキスをした。


抵抗、したら、死んでしまう。


「ま、とりあえず起きなよ。
俺結構長いこと寝かしてたから体痛いっしょ」
「う、ん」


車で迎えにきて、わざわざ抵抗もしないだろうに眠らせてきて。
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