綺桜の舞う
「今頃、湊に病気さえなかったら、天馬の人間だったろうね」


にっこり笑う薫風がいつにも増して憎たらしい表情をしている。


「でも、湊くんは戦えなくて……」
「戦ってたろ。普段は病気のこともあって避けて通るだけ、あいつはお前なんかより何十倍も強い。
歴代最強だなんて歌われた夜桜の2代前の総長空井陽向でも、あいつのガチにはかないっこない。

組長が5歳当時の湊を未だに引き合いに出すくらいなんだから」


気に入らない、といった顔で舌打ちをする薫風。
今日の薫風は表情がやけに豊か。


「ま、なんでもいいけど。
お前、今日戦えよ」
「へ……」
「どーせここまで来るのは湊だろうし。湊と」
「で、でも、私じゃ勝てないんじゃ……」
「勝てないよ?別に勝てなんて言ってないじゃん。
体力削ってくれりゃいいの。それとも何?嫌なの?」


殺気が、強まる。
怖い、ダメだ、逆らっちゃ。
逆らえない。弱い私は、この人の言いなりになるしかない。
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