綺桜の舞う
残酷とは、こう言うことだと思う。
ここに戻ってくるにおいて無理矢理私に湊を捨てる決心をしろと、そう言うことだと思う。
強引だ。
人の気持ちも知らないで、強引すぎる。


「他人の女とイチャついてんのはどこのどいつだ。ぶっ潰していい?」


空間を貫く、殺気だった声。
今聞きたくて仕方がなかった、あの人の声。


「ふぅん、早いじゃん。もっと手こずるかと思ってた」
「有能な仲間がたくさんいるもんで。
……久々だな、何年ぶりだよ」
「別に俺はお前と昔話をするつもりはないよ」
「あーそーかよ。なんでもいいけど叶奏返して」
「叶奏はこっちの人間だから」


コツコツ、と靴を鳴らしてこっちに向かってくる湊くん。
今すぐ立ち上がって、走って胸に飛び込みたい。
なのに足は立たないし、声も出ない。
溢れそうな涙を無理矢理押し殺すだけ。
私は、湊くんのところには帰れない。
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