綺桜の舞う
結局、総長としての私なんていなかった。
記憶がなくなって、夜桜の記憶も、薫風の記憶もなかった私が選んだのは、仲間を愛してやまない総長という皮をかぶることだった。


ただ、今の私には、そんな選択肢なんて、選べない。


「別になんでもいいけど。俺、叶奏連れて帰るって約束したから。問答無用で」
「ふぅん……そんなに叶奏が欲しいならくれてやるけど。
叶奏も、わかってるよね?」


私のことを振り返って、無理矢理手を引くと、私を湊くんの前に押し出した。


……あぁ、どうしよう。


怖い。





「叶奏、帰ろ」
「……、」


私は何も言わずに、この戦いの火蓋を切ってしまった。


「……っ、ったく、叶奏まで洗脳されてんじゃねーよ」





沙彩は、日頃から強くなりたい、とそう言っていた。
どの口がほざいているんだってずっと思っていた。
私よりずっと強くて、陽向のことをなによりも大切にしていて。
好きだから、守りたいから、一緒にいて欲しいから、戦う、とそんな物語の主人公みたいなことを言っていたのを覚えている。

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