綺桜の舞う
抗争前日、蛍は、朔さえ無事にいてくれればいいと、そう言っていた。
だから蛍は、命を失わないのであれば朔を傷つけること厭わないし、前線に行かせるようなことはしない。
夜桜に戻るなんて虫のいいことはする気はないけど、朔がこの抗争でいなくなるようなクソみたいな話は絶対に起こさない、とまっすぐな瞳でそう言っていた。



……私の方こそ、強くなりたかった。
薫風のことを恐れなくていいくらい、迷わず湊くんの手を握れるくらい、強い精神が欲しかった。


全部無理だった。
変われなかった。
周りの変化には、ついていけない人間だった。


愛がどうとか、恋がどうとか、そんな綺麗な感情で動ける人間は真っ直ぐで素敵だと思う。
ユキも、琥珀ちゃんも、感情だけで生きている気がするけど、私はそうなりたいと、ずっと思っていた。


愛も恋も、私には関係がなかった。
自分が、ただここに生きていることが、私に取っての最優先事項だった。


信じられるのは、自分自身、だけ。

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