綺桜の舞う

帰るべき場所なんて、最初からわかっていた。


わからなくしていたのは、自分の弱さだった。
恐怖に囚われようとしていた私だった。


「……伊織くん、離して」
「んー、ダメ。湊が……」
「私、やらなきゃ。薫風倒して、早く帰んなきゃなんないから。少しでもみんなの力になりたいの」


ゆっくり、伊織くんの握力が抜ける。
そして私は、歩き始めた。
そこでふと、伊織くんが異様なくらいにボロボロなのに気付く。
ここで、何もできていないのは、本当に私だけなんだ。


恐怖に支配される理由なんてない。
私にはちゃんと仲間がいる。
助けてくれる仲間が、救わなきゃいけない仲間が。
そして、これからも隣を歩みたい、好きな人がいる。


いつまで甘えてるんだよ、私。



そうして繰り出した私の拳は薫風にクリーンヒットした。


「……っ、叶奏ちゃん……」
「いいよ、私がやる。ていうか、私がやらなきゃいけないことに気づいた。
ごめん、私、夜桜の総長だった」


ユキはフッと息を漏らすと、琥珀ちゃんの手を引いて、後ろに下がった。


……戦いの始まりは、今だ。
< 432 / 485 >

この作品をシェア

pagetop