綺桜の舞う
52.大切なもの。
「迎えに参りました!」
「……おはよ」
「おはよ、湊くん」


朝から耳と尻尾が見えるんじゃないかってくらい、前のめりに俺のベッドに体重をかけて楽しそうな表情の叶奏。


今日は俺の退院の日。


この日のために叶奏は綺龍の倉庫の前まで行っては帰って、夜桜の倉庫の前まで行っては帰って、近づいたところを見られて招き入れられて、死ぬほど謝って、ごめんなさいを言い続けて、夜桜ではちゃんと総長に戻り、綺龍では同盟族のトップとして、しっかり頂点に返り咲いた。


「本当に運転すんの?」
「うん。頑張る〜」


「私は荷物持って帰ればいいんだよね、じゃあ帰るわ」


先に来ていた姉貴は着替えてすぐの俺の服を俺から奪い取ると、颯爽と帰っていった。


で、ベッドを挟んで見つめ合う俺たち。


「……俺、叶奏の運転怖いよ?」
「安全第一がんばります」
「……う、ん」


今日は抗争で怪我をした人間の完全復帰祝いで祝杯らしい。
綺龍の倉庫。
< 472 / 485 >

この作品をシェア

pagetop