綺桜の舞う
叶奏のこと、たくさん知っちゃったから。
叶奏も俺のことたくさん知ったから。
俺に知られたくないだろうこともあっただろうに。
俺も知られたくないことだってあった。


お互い、お互いのことを理解して飲み込んで受け止める時間がいる。


離れる気はない。
叶奏がいないとだめだし、叶奏も同じことを思ってくれてると思う。
これからやりたいことだって伝えたいことだって山ほどある。


だけど、受け止めるのとそれに関してはやっぱり違う次元の話で。
ゆくゆくは受け止めたいと思ってる。
でもそうするにはまだ、俺の精神的余裕はない。
叶奏もおそらくそうだろう。


抗争は俺たちの心身を削る。
どうしたって避けられないことはどこにでもあるものだ。



「……ねぇ、湊くん」
「ん?」
「信じてくれて、ありがとう」
「……ま、好きだからだよ」


俺はそう言って叶奏の唇にキスを落とした。
少しだけしょっぱい味がした。


俺のことを、生かしてくれてありがとうなんて面と向かって言えたものじゃないけど。


でも。


「……ちゃんと薬、見つかったよ」


これくらいは伝えて然るべきだと思う。


叶奏の隣に沈む。
ギュッと叶奏を抱き寄せて、少し見合って、なんとなく笑いが溢れて。


「……おやすみ、叶奏」
「おやすみなさい」


こうやって言葉を交わせることが幸せだと、ひしひしと感じながら、ゆっくりと眠りに落ちた。
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