綺桜の舞う
「じゃあ、どうして総長にするなんて強行……」


「あいつが自分でするって言ったんだよ。
だから俺たちは昔のことを全部話して、あいつの記憶にできるだけ断片がないように思い出話して。
それで今の総長がある。
前の総長のことをよく覚えてないのも、族のことを曖昧にごまかすのも、あの人自身が覚えてないからなんだ」


……。


昨日の夜、叶奏は「誰のことも覚えてないの」と言って泣きそうな顔で微笑んだ。
自分がどうしてこうなのかも。わからない。


「元からあの人は自分のことをペラペラ人に言い尽くすようなタイプじゃなかったから、俺も夕もあの人の失われた2年のことなんてほとんどわからない。
俺たちの族に入る前は、ただのその辺にいるような不良に見えたし、その前はただの真面目な学生だった。


どうしてグレたのかも、族に入ろうとしたのかも、俺たちにはわからない。


ただ、今の総長を制するような、総長から居場所を奪うような覚悟は俺たちにはない。
総長が俺たちと一緒にいることを選んだから、俺たちはあの人を真っ向から受け止めてる」
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