綺桜の舞う
推測できることは、叶奏が戦い方を知らないのは記憶の断片として喪失したからだと、多分それだけのことだと思う。
そう思うと、本来の叶奏を取り戻したとき、あいつは族世界全体を脅かす脅威になる可能性がある。


……でも、わかるのはそれだけ。
叶奏の素性は、叶奏自身にも分からない。


「……それであの人の精神が保たれてるのは?」
「総長は強い人だから。
馬鹿馬鹿しいくらい、真っ直ぐで曲がったことをするのが苦手で、それでも守るべき人を守るためなら、自分の手を汚す覚悟がある。
総長の強さは、守りたい人がいること。
今はそれだけだと思う」


ソファ裏の悪意に垂れ流されているこの情報は嘘偽りのない真実。
こんな情報を垂れ流すなんて、夜桜としては、すこぶる危険だ。


「口外、しないように」
「わかってる」
「できれば下の奴らにも」
「うん」


こうして、俺たちの契約と夜桜の機密情報は敵に垂れ流されて幕を閉じた。


それから1週間。
事態が変わったのはそのあたり。


敵が、まんまと顔を出した。
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