My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「ほら、歌の練習すごく頑張ってるから」
「……」
「……アヴェイラ?」
瞳を大きくしたまま固まってしまった彼女の名を呼ぶ。
そのまましばらく沈黙の時が流れて。
「――べっ」
「べ?」
「別にあたしはあいつのことなんてこれっぽっちも想ってやしないよ!? 何言ってるんだい!」
大声で否定しながら彼女はくるりと背を向けてしまった。
「歌を練習してるのは、あいつを見返してやるためだって言ったろ!? あたしが歌ってやったらあいつが一体どんな面白い顔を見せてくれんのか楽しみでしょうがないね!」
「そ、そっか」
やっぱり、素直に認めてはくれないかとこっそり肩を落としていると。
「それにあいつは、あたしのことは裏切り者だと思っているだろうしね」
そう続けた彼女の背中がなんだか寂しそうに見えて、私は声を上げた。
「そんなことないと思う!」
「……なんでそう思うんだい」
疑わし気な声に私は強く答える。
「だってグリスノートはアヴェイラにイディルに戻ってきて欲しくて、それで会いに来たんだよ!」
そうだ、あのときちゃんと話が出来ないままラグがアヴェイラの船を吹っ飛ばしてしまったのだ。でもグリスノートは確かにそう切り出すつもりだった。
すると小さな声が返ってきた。
「……それは、本当かい?」
「本当だよ! オルタードさんにも言ってた。アヴェイラと話をつけてくるって。皆アヴェイラに帰ってきて欲しいんだよ」
「……」
また少しの沈黙が流れて、彼女はふんっと鼻で笑った。
「今更、帰れるわけないだろう」
表情は見えないけれど、その拳が強く強く握られているのを見た。
「アヴェイラ……」
「でも、そうかい。あいつそんなことを……。ふふっ、そうかい」
彼女はそうして少しの間肩を震わせ、勢いよくこちらを振り返った。
「ますます明日が楽しみじゃないか、ねぇカノン!」
悪い顔で、海賊の頭らしくにぃっと笑った彼女を見て私は小さく驚き、それからそうだねと苦笑した。