My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
しかしアヴェイラは目を覚まさない。――頭に過る最悪の事態。
グリスノートも同じことを考えたのだろう。彼女の胸に耳を当て、でもすぐに安堵の表情を見せこちらもほっとする。
「急に、どうしたってんだ……」
「セイレーンでもねぇのに、歌を使おうとするからだ」
答えたのはグリスノートの背後に立った小さなラグだ。
――歌を使おうと……?
少年が呆れたふうに息を吐いてこちらを見た。
「お前も最初こうなっただろうが」
「で、でも」
(練習のときは何ともなかったのに……)
口のうちで続けながらもう一度アヴェイラを見つめる。
確かに声の大きさも、響きも、練習の時の比ではなかった。本番、グリスノートを前にして全力を出し切ってしまったということだろうか。