My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】

 おそらく一番の被害者であるグリスノートが大きくのけ反り小刻みに震えていて、その腕から落ちるかたちになったアヴェイラはそのまま転がるようにして彼から距離を取った。
 グリスノートが頭を振って、尻餅をついたような格好でわなわなと震えているアヴェイラをぎっと睨みつける。

「うるっせぇな! 耳がぶっ壊れるだろうがよ!!」
「なっ、な、一体、なにが」

 アヴェイラは自分が倒れたことを覚えていないようで、きょろきょろと周囲を見回した。その顔は真っ赤に染まっていて。

(目が覚めたら好きな人の腕の中だもん。そりゃ、びっくりするよね)

 と、グリスノートが呆れたように大きな溜息をつく。

「そりゃこっちの台詞だっつーの。……心配かけやがって」
「え……?」

 ふたりの視線が交わる。

「ところでお前、ひょっとして俺に惚れてんのか?」

(うわっ)

 あまりに不躾過ぎる問いに、そんな声が出そうになる。
 アヴェイラの動きと、その場の空気までピシリと凍った気がした。
 そして、そんな言い方をされて彼女が素直に「はい」と答えるわけもなく――。

「ううう自惚れてんじゃないよ! あんたみたいなおかしな奴にこのあたしが惚れるわけないだろ!!」

(アヴェイラぁ……)

 おそらく、今この場にいる皆ががっくりと肩を落としたに違いなかった。
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