My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
間もなくして戻ってきたラグさんは確かにブゥを連れていた。
「ブゥ、頼んだぞ。あの船だ、見えるか?」
「ぶーぅっ」
ブゥはラグさんの指差した方を向いて力強く返事をするとすぐに飛び立っていった。
それを見送っているラグさんに兄貴が声を掛ける。
「あいつに何が出来んだよ」
馬鹿兄貴! と声が出そうになる。案の定、ラグさんがものすごい形相で兄貴を睨みつけた。
「それよりどういうことだ。なんであの女海賊がカノンを攫う必要がある」
言い返されて兄貴は一瞬言葉に詰まったようだった。……多分、ラグさんの雰囲気に気圧されたのだ。
(あの時と同じ……)
私はぎゅっと自分の服の裾を掴んでいた。
あの時――イディルで兄貴がお嫁さんの格好をしたカノンを連れて行ったとき、止めに入った私にラグさんが見せた表情。
あの怒りに震えた瞳が、今でも目に焼き付いている。そして思い出す度にぞくりと身体に小さく震えが走るのだ。
少年の姿をしていても、それは同じで。