My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
そうして背を向けてしまった彼に私は言う。
「なんでもなくないでしょ?」
「大丈夫だ」
「大丈夫には見えないよ」
「……ただ、夢を見ただけだ。だから、大丈夫だ」
(夢……? もしかして、レーネの……?)
――なんで私は、彼なら大丈夫だと思ったのだろう。
明日、いよいよ因縁の地に……彼にとって一番辛い場所に足を踏み入れなければならないのに、不安にならないはずがない。
彼がいくら強く見えたとしても、大丈夫なはずがない。
「もしかして、ずっと眠れてないの?」
「……眠っても、どうせ胸糞悪ぃ夢を見るだけだ」
掠れた声が返ってきて、私は続ける。
「いつから」
「……うるさい。いいから、お前は寝ろ」
ひょっとしたら昨日だけではなくずっと、船の中でも彼は眠れていなかったのではないか。だとしたら――。
ふと見れば、彼の枕元にいるブゥが私の方をじっと見つめていた。まるで何かを待っているように。
私はそんなブゥに小さく頷いて、ベッドを降りた。
そのまま隣の彼のベッドに腰を下ろすと、彼の背中がびくりと震えた。
「なっ、」
こちらを振り向いた彼に私は優しく微笑んで、小さく口ずさみはじめる。
――彼のための、子守唄を。