My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「聞いたかい? 今この辺りをラグ・エヴァンスがうろついてるんだとよ」
「!?」
危うく、飲んでいた水が変なところに入るところだった。
ガタイのいい男性がカウンター向こうの老主人に身を乗り出して話しかけていた。他に客は私たちしかいない。
目の前のラグは全く動揺したそぶりなく、黙々と料理を口に入れている。
私も普通にしていなければと残りのパンを千切って口に運んだ。
「初耳だが本当かい?」
「なんでも、俺はラグ・エヴァンスだと名乗って旅人から金を奪ってるって話だ」
それを聞いて、一昨日会った野盗たちがすぐに頭に浮かんだ。
(あの人たち……!)
「そりゃあ、ただの野盗じゃないのかい?」
思わず、大きく頷きそうになる。
「だがな、ちゃんと魔導術も使えるっていうんだぜ」
主人が息を呑むのがわかった。