My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「奴に何もされなかっただろうな」
ドアが閉まった途端、低い声で問われ慌てて首を振る。
「何もされてないよ!」
否定しながら、以前にもこんな会話をした気がした。確かセリーンに出会ったばかりの頃だ。
セリーンが今でもラグのことを信用していないのがわかって、それがマルテラさんの先ほどの台詞と重なってしまった。
「野宿は嫌だったし同じ部屋には泊ったけど、ラグ自分は椅子で寝たりすごく私に気を使ってくれて、なんか申し訳なくなっちゃった。ラグだって、好きでもない子と同室なんてほんとは嫌に決まってるのにね」
そう苦笑しながら言うと、セリーンが驚いたように目を丸くしていた。
「え?」
「……いや、ならいいが」
セリーンはそう言うと荷物を置いて窓の方へと足を向けた。
「しかしまさか、本当にこの街にいるとはな」
窓から外の様子を見下ろしながら彼女は続けた。
「うん……。ほんとはね、情報を手に入れるためにちょっとだけって話だったんだけど」
「そうはいかなくなったわけか」
私も荷物を置いて頷く。