My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
27.傷ついた瞳
結局、ラグはブゥをポケットに入れたまま食堂におりた。多分、食事どころではなかったと思うけれど。
「主人、この街で歌やセイレーンの噂を聞いたことはないか?」
お酒のおかわりを持ってきてくれた宿の主人に、セリーンがそう声をかけた。
主人は数回目を瞬かせてから首を捻った。
「さぁ、聞いたことないですが……」
「いや、以前そんな話を耳にしたことをふと思い出してな。そうか、知らないならいいんだ」
すると主人は穏やかな笑顔で続けた。
「私がこの街に移り住んだのは5年前ですからねぇ、元々のレーネの住人に訊いたほうがわかるかもしれませんよ」
「元々の住人か」
「鉱夫たちをまとめているアジルという男がこの街に一番詳しいと思います」
セリーンがお礼を言うと主人は笑顔で戻っていった。