My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「だから、お前がそんな顔すんなって……」
昨日と同じことを掠れた声で苦笑するように言われて、先ほどから止まらない涙が更にあふれた。
でもそれを拭うことはしなかった。今は視界が歪んでいる方が都合が良かった。
彼が進むごとに床に伸びていく赤い色を直視せずに済んだから。
閂のかかった扉の前まで来て、私は立ち止まる。
(どうする……?)
外にはたくさんのモンスターたちがいる。扉横の窓からも、まだうろつくその姿が確認出来た。
ラグが元の姿に戻るまで、あとどのくらいかかるかわからない。
それまでラグが持ち堪えてくれるかどうかも――最悪なことを考えそうになって頭を強く振る。
「もういい、カノン」
「え?」
ラグが支えていた私の手を弱々しく退けて腰から愛用のナイフを抜きとった。
「ここにいれば、とりあえず安全だ。オレが外に出たら、またしっかり扉を閉めろ」
そうして彼は扉に手を掛けた。
「いいな」
「よくないよ!!」
私は怒鳴って彼の小さな身体を後ろから抱きしめる。
「なっ!?」
「その傷で何言ってんの!?」