My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
そのまま傷口に触らないようにその身体をズルズルと引きずってすぐ近くにあった椅子に座らせる。……こうして私に抗えないのが彼が酷く弱っているいい証拠だ。
「戻れば自分で」
「いつ戻るかもわからないのに、今はとにかく動かないでじっとしてて! じゃないと死んじゃうよ!」
彼の前に膝を着いて叱りつけるように言うと、彼は一度瞳を大きくして、それから視線を落とした。
「……別に、死んだってかまわない……」
「――っ」
その言葉を聞いてもさほど驚かなかった。――やっぱり、彼はその気だったのだ。
疑念が確信に変わって、それがただショックだった。
「絶対に死なせない」
小さく、でも強く言うと彼が不思議そうにこちらを見上げた。
(やってみるしかない)
「――ッ」
心を決めて彼の血で濡れたその場所に手を伸ばすと、彼がびくりと顔を歪めた。
ぐちゃりとした嫌な感触にまた涙が出そうになったけれど、心を落ち着けるために一度大きく深呼吸する。
「おまえ、まさか……っ」
察したらしい彼が奥の部屋を気にして私の手を引きはがそうとする。それも大した力はなくて、私は構わず囁いた。
「ちちんぷいぷい いたいの いたいの とんでいけ」
「……は?」
「これ、私が小さい頃によくおばあちゃんがかけてくれた、“おまじない”」
――以前、確かこの世界に来てすぐの頃に一度自分の傷を治そうと唱えた“まじない歌”。
あのときは何も起こらなかった。けれど。
(今なら、出来る気がする)
薬指の青い石が目の端でキラリと光った気がした。