My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
何か言いたいのに、顔が見れない。
「おやすみなさい」とか、「お疲れ様」とか、掛ける言葉はたくさんあるはずなのに声が出ない。
――すれ違いざま、彼が薄く笑った気がした。
「帰れなくても、居場所が出来て良かったじゃねぇか」
私は目を見開く。
背後でまた扉が開いて吹き込んできた風が後ろ髪を揺らした。彼が甲板に出ていくのがわかって、その扉が再び閉まっても私はそこから動くことが出来なかった。
「カノン?」
なぜだろう。自分の両目から涙がぼろぼろと零れていた。
これはなんの涙だろう。
突然の告白に驚き過ぎて、今になって気が抜けたのだろうか。
それとも今のラグの言葉にショックを受けたのだろうか。
(……ショック? なんで?)
セリーンが優しく声を掛けてくれるけれど、私は何も答えることが出来ないままその場に泣き崩れた。