My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「今そこから出ても、僕の居場所はもうどこにもない。きっと僕の存在は皆を困らせてしまうだけだからね」
「そんな……!」
「それに、この場所にこの身体があるとまた良くないことが起こるかもしれない。だから僕はこのまま消えることにするよ」
「そんなのダメです!」
私が大きく首を振って叫ぶと、エルネストさんはくすりと笑った。
「大丈夫。僕はこういう存在だからね、身体は消えてしまっても意識はこうしてずっとこの世界に残る。あぁ、あの楽譜もちゃんと消しておくから安心して」
あの楽譜……例の恐ろしい曲のことだろう。
「――ただ、その前にひとつだけ君にお願いがあるんだ」
「お願い?」
「もう一度、この世界が歌で溢れるところを見てみたい。この場所で歌えば、世界中のみんなにその歌声と想いは届くはずだから」
エルネストさんが綺麗な笑顔で言う。
「だからカノン、歌ってくれないかい?」
私はこみ上げてくるものをぐっと堪えて、頷く。
「やってみます」
歌うことなら私にもできる。それだけが、この世界で私に与えられた唯一の奇跡の力だから。
それに、私も見てみたい。
このレヴールが歌で溢れるところを。
私は胸元で祈るように手を組み、すぅと息を吸い込んだ。