My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
甲板の扉の前まで来て、ここまで誰とも会わなかったのも気になった。
私たちは顔を見合わせ耳をすませる。
聞こえてくるのはザーっという甲板に打ち付ける雨音だけ。皆扉の向こうにいるはずなのに、人の声が全く聞こえない。
「……まさか、皆海に……!?」
リディが青い顔で一番恐れていたことを口にしながら勢いよく扉を開け放った。
途端、雨がこちらにまで吹きこんできた。
外はすさまじい雨で酷く視界が悪かった。まだ夜明け前なのだろうか。それとも空を覆う分厚い雨雲のせいだろうか。とにかく暗い。しかし風はほとんどなかった。
甲板に大勢の姿が確認できた。そのことにまずホっとして、でも皆一様に船縁から海の方を見つめていた。
「兄貴!!」
リディが大声で叫ぶ。
すると船首付近にいた人物が驚いたようにこちらを振り向くのがわかった。
「出て来るんじゃねぇ!!」
彼、グリスノートがすさまじい剣幕で怒鳴った。そしてすぐにまた海の方へと視線を向けてしまう。
「なんでよ!」
そうして甲板に出ていこうとしたリディの腕をセリーンが掴んだ。
「今下手に出たら滑って転落するかもしれん」
「――っ、ねぇ、どうしたの? 何があったの!?」
リディがもう一度叫んだ。……彼女も感じているのだ。この言い知れぬ不安。ドクドクと低く胸を打つ嫌な音を。