My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
だがグリスノートは背を向けたまま答えない。
と、ひとりこちらに歩いてくるのがわかった。コードさんだ。
「コード、一体何が」
リディが訊ねると、雨でびしょ濡れになったコードさんは目を覆った前髪を払おうともせずに静かに告げた。
「フィルが、落ちたみたいっス」
「え……」
リディが小さく声を上げた。
「ラグが風はどうにかしてくれたんスが、その後どこを探してもフィルの姿がなくて……」
――フィルくんが落ちた……?
嘘みたいで。まるで現実味がなくて。
「今皆で探してるんスが、この視界の悪さでどうにも……」
そこでコードさんは言葉を切った。
こんなにも静かな理由がわかった。皆フィルくんのかすかな声も聴き逃すまいと必死に耳を澄ませているのだ。
「ボートは!? ボートに乗って捜せないの!?」
リディが甲高い声を上げる。確かにこの船には小さなボートが乗っていたはずだ。だが。
「今闇雲にボートを出したら、フィルに当たっちまう可能性があるっス」
コードさんが掠れた声で答えた。
「そんな……っ」
リディが声を詰まらせその場にがくりと膝を着いた。
セリーンがそんな彼女の肩に優しく手を置く。