My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
「ラグは……?」
その姿が見えない。だって、いつもフィルくんはラグの傍にいた。
「さっき、海に飛び込もうとして、船長が止めて、今も……」
言われてグリスノートのすぐ手前に小さな背中を見つけた。
小さなラグ。彼は、術は使えない。
大きなラグなら空を飛んで上空からフィルくんを見つけることだって出来るかもしれないのに。だからラグは海に飛び込もうとしたのだろう。
彼を見つけるために。フィルくんを助けるために。
――私にも何か出来ることがあればいいのに。
そうだ。私なら出来る。
今、何か出来るのは私しかいない。
(ラグの代わりに、フィルくんを助けられるのは私しかいない)
意を決して、私は雨の打ちつける甲板に足を踏み出した。
「カノン?」
リディの力ない声が聞こえて。
「まさか!」
セリーンの裏返った声を耳にしながら、私は静かに息を吸い込んだ。