My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】
歌で抗いたくともこの強風の中では口を開けることすら難しくて、意識のないフィルくんを落とさないように抱きしめているので精一杯だった。
アヴェイラの船がぐんぐん近づいてくる。そして船上に確かに彼女の姿を捉えた。
船首に立つアヴェイラは私を見上げ、その口がにんまりと笑っていた。
(なんで、彼女が私を……?)
もう一度話したいと考えてはいたが、この状況では嫌な予感しかしなかった。
このままでは甲板に叩きつけられる! そう思いぎゅっと目を瞑った瞬間、ふわりと風が優しくなり私は慌てて目を開いて体勢を整えた。
まず両足が甲板に着いて、フィルくんをその場に優しく寝かせたところで私たちを包んでいた風は霧散した。
一先ずほっとしてペタンとその場に座り込むと、前方からカツカツと足音が近づいてきて目の前でピタリと止まった。
恐る恐る顔を上げると、女海賊アヴェイラが仁王立ちになってこちらを見下ろしていた。腰ほどまである綺麗な長い髪が風に揺れて、いつの間にか雨が止んでいることに気づく。
彼女は満足げに、またあの歌うような高笑いを上げた。
「よ~っほほほほ! ようこそ、あたしの船へ。銀のセイレーン!」