片思いー終わる日はじめる日ー
「あー、よかった、オレたちまできたら、どうしよかと思ったぜ、な、有実(ゆみ)
 石川が後ろの席から教科書であたしの頭をぽんとたたく。
 いつの間にか、あたしは石川にとって『ゆみ』で。
 どこかでチクチク痛む心をかかえながら、やっぱり今日も『ゆみ』で。
「おい、有実」
「んー?」
「次の体育な、ちゃんと見てろよ。オレ、100メートル、ちょっと自信あるんだ」
「なんでぇ? そういう自慢ならよそいってしなさいよ。井森なんか、どう? あの子、弱いから肉体派に」
「おまえは、文化系シュミだもんな」
 な…によ、そのトゲのある言いかたは。
「うみィー、更衣室、行こっ」
 ほーら、言ってるそばからA組も終わって井森が呼びに来た。
「あれ、どうしたの井森、その脚」
 制服のスカートから、きれいに伸びた足の膝頭(ひざがしら)に痛々しい包帯。
「昼休みに階段でコケたの……」
「ありゃま。大丈夫?」
「だいじょぶ、だけど、さ……」
 なんだぁ、なにもじもじしてんの、この子は?
「今日、見学だから、その、アレよ……。ちょっと大海!」
 ずっとおとなしくあたしを待っていてくれた大海ちゃんが、おずおずと席から立ち上がる。
「なに、かしら……?」
「…その、いっしょにいても、いいかな…と、思っ…て――…」
 ぷっ!
 あははははははははは。
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