片思いー終わる日はじめる日ー
「先生、それ8本あるってことはクラス別なんだろ。クラスに新入生総代がいるってのは先生たちにも、そんなにうれしいもんすか」
 とたんにさわがしくなる教室を見回して中井が肩をすくめた。
「どうかな。これ、ここの伝統らしいよ。初日にこれを見せつけて、今後どうするか、生徒本人に決めさせるんですって」
 またザワザワ。
 校則もない自由な進学校。
 自由。
 なんてステキ。
 そんな軽い気持ちで選んだ学校だったけど――。
「落ちこぼれは救わない。授業は上の子に合わせて進む。そう伝えるように河島先生から言いつかっております、です」
 今度はもうザワザワなんてものじゃない。
 ギャーギャーだ。
「……っ……」
 あたしはといえば恐ろしくて声が出ない。ガクブル状態。

 今さらながらに自由の意味を知った気がした。
 やるもやらないも自由。
 ここには、やれ! とお尻を叩いてくれるひとはいないのだ、という事実。

「ばからし……」
 えっ?
 身体の硬直がとけたのは、うしろから聞こえたひと言のおかげ。
 息だけみたいな声だったけど、真うしろだから、あたしには聞こえた。
 反射的に振り返ってにらんだ男は、やっぱりマイペースしてた。
 なにしろ声だけはデカイ出席番号1番と3番にはさまれて、しかもこの騒ぎのなかで、文庫本を読んでいるくらいだから。
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