片思いー終わる日はじめる日ー
 すっかり思い出すことに夢中になって、ちょっと長く見つめすぎたかもしれない。
 また文庫本に視線をもどされて初めて、これは見つめあっていたという状況なのでは? と気づいたけど。
 気づいたとたんに耳のうしろが熱くなって。
 目の前の男の子も詰襟(つめえり)からのぞく首が真っ赤だったから。
 顔がどんどん熱くなる。

 いやいやいや。
 ちがうし。
 見つめあってたわけじゃないし。
 カッコイイとか、ちがうからぁぁぁ。

 両手を熱い頬にあてたとたん、うつむいた赤根(あかね) (ばく)のうしろの石川 啓介とばっちり目が合ってしまった。
 石川の顔がゆがむ。
 うわ、うわ、ちがうってぇ。
 石川は唇を「へ」の字に曲げると、いきなり立ち上がった。
 右手を上げる。
 なんだ、なんだ。なんなんだ。
「宣誓! 495点は出席番号2番、赤根 麦。オレは2問つまんねぇミスしたから、たぶんその下。だけど期末までにはてっぺん取る。以上」
 ひぇぇぇぇぇぇ。

 あたしの驚きは声にならなかったけど、教室はとんでもなくざわめいた。
「しぃーずぅーかぁー、に!」
 中井のやる気のない叱責くらいで騒ぎは収まるはずもなくて。
 あたしは成り行きでまた赤根と見つめあう羽目に。
 というか、にらみあい?
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